大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成12年(ワ)227号 判決 2000年8月25日

原告

丸福運輸株式会社

被告

山田智久

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二一二万一〇一八円及びこれに対する平成一一年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に被告に対し民法七〇九条により損害賠償を求める事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 平成一一年八月九日午後一〇時三一分ころ

(二) 場所 静岡県浜松市下飯田町五五五番地

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車

(四) 被害車両 訴外與語昭則(以下「訴外與語」という。)運転の大型貨物自動車

(五) 態様 追突

2  当事者

原告は一般区域貨物自動車運送事業を営む株式会社(弁論の全趣旨)であり、訴外與語は原告の従業員である。

二  争点(被告の原告に対する損害賠償責任の存否)

(原告)

1 訴外與語は、本件事故により頸椎捻挫、腰椎椎間板障害の負傷を負い、平成一一年八月一九日から同年一〇月八日までの五一日間原告における勤務を休業した。

2 原告では一四人の従業員が一四台の車両を稼働させているところ、訴外與語が休業し、他の従業員により代替させることもできないため、原告は訴外與語が乗車していた大型貨物自動車一台を右の期間全く稼働させることができなかった。その結果、訴外株式会社油研から依頼された左記の運送業務を断らざるを得ず、合計三〇二万九五〇〇円の損害を受けた。

平成一一年

八月分

二三〇トン

九五万四五〇〇円

九月分

三五〇トン

一四五万二五〇〇円

一〇月分

一五〇トン

六二万二五〇〇円

3 右の得べかりし売上額から経費の内不要であった軽油代三〇万一五七〇円、訴外與語が被告から支払を受けた休業補償費六〇万六九一二円を差し引いた二一二万一〇一八円は、被告の過失による本件事故により生じたものであるから、被告は右の損害を賠償する義務がある。

(被告)

原告の主張を争う。

企業損害については、企業と直接被害者との間に経済的同一体の関係があるときに限り賠償を認めるべきであり、そうでない場合には相当因果関係がない。

第三争点に対する判断

(成立に争いのない書証、弁論の金趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  争点について

原告は訴外與語の休業期間について他の従業員により代替することができない結果、本件事故により避けようのない損害を受けたと主張するが、事業経営者にとって事業経営に当たり従業員が事故に限らずさまざまな理由により休業することは当然予想し得ることがらであって、個々の従業員が休業したからといって直ちに業務に支障が生じるのであれば安定した事業経営は到底望めないのであるから、このようなことのないようにしかるべき代替要員等を確保しておくのが通常であって、たまたま原告がこの対応を怠り従業員が交通事故で業務に従事できなくなり事業上の損害を生じたとしても、そのような損害は交通事故の加害者にとって一般に通常予見可能ということのできる損害とは認められない。

したがって、原告の主張する損害は、特段の事情のない限り、本件事故により通常生ずべき損害とは認められない。

そして、弁論の全趣旨によれば、訴外與語は原告の一四人の運転手のうちのひとりであって、訴外與語の休業補償と原告の営業上の損害とはその内容も帰属主体も異なることが明らかであるから、訴外與語と原告との間に経済的一体性があるものとも言えず、したがって、訴外與語の休業による原告の営業上の損害を被告に賠償させるべき特段の事情も認められない。

二  結論

以上によれば、原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないことが明らかである。

(裁判官 堀内照美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例